戦後と共に・・・

 永六輔氏、大橋巨泉氏が相次いで逝った。日本の高度経済成長と共にテレビ番組も発展していったが、その人気番組を生みだした放送作家の巨匠たちである。

 

高度経済成長期は1955年頃から1973年頃らしい、1956年(昭和31年)生まれの私は、まさにその真っ只中に多感な時期を過ごしたのだ。上記のお二人は当時の私には憧れの大人の番組を手掛けていた。

 

そして、子供向け番組で印象の深いのは当然アニメの数々だが、他には小学校の間にNHKで放送されていた人形劇『ひょっこりひょうたん島』だった。昭和39年4月から44年3月(小学校2年から6年)までの放送なので、ちょうど宮崎からアメリカ統治下の沖縄に移り住む時期に重なり、この5年間で3つの小学校を転校をしたのからも判るように、家族にとって激動の時期たったのは間違いない。(因みに、当時は沖縄住民向けのテレビ局は2つあったが、アメリカ統治下のせいでNHKはその中の1局がCM付きで暫く放送していた。そして、アメリカ軍人向けの放送局の番組も受信できていた(驚))

 

話を戻すが、ひょこりひょうたん島の脚本を手掛けたひとりが井上ひさし氏(もうひとりは児童文学者の山元護久氏)だったということを、氏の小説を最近読んで、その巻末に掲載された著者自筆の年譜で知った。ひょっこりひょうたん島のテーマソングは50年経った今でもそらで歌えるので、低学年のときは番組が始まるとテレビにかじり付いて観ていたと思う。

 

その井上ひさし氏の小説とは、『モッキンポット師の後始末』である。モッキンポット???そう!前々回に取り上げた、高校生の時に初めて行った喫茶店の名前である。あの時、なぜ店名に疑問を持ち、マスターにその謂れを聞かなかったのかと思う。あのブログを書いたあとに、モッキンポットが気になりパソコンで検索してみると、モッキンポットの意味は出てこなかったが、『モッキンポット師の後始末』という小説が出てきたので、そこから拝借した店名だろうと推測できた。数日後、地元の図書館で興味のある本を数冊引き抜きながら、文庫本のコーナーに行くと、何か訴え掛けてくる古ぼけた背表紙のタイトルが見えてきた。それは何と『モッキンポット師の後始末』ではないか!(何事も懸命に求めているときは見付からなくて、潜在意識に入り込んだ重要なものが、特にに探していなくても、ふと与えられることってある!)当然、他の数冊と共に借りて帰り読みだすと、夢中になってしまったのだった・・・

 

それは、井上ひさし氏の昭和46年(1971年)に書いた初めての小説で、裏表紙には「食うために突飛なアイデアをひねり出しては珍バイトを始めるが、必ず一騒動起こすカトリック学生寮の”不良”学生三人組。いつもその尻ぬぐいをさせられ、苦りきる指導神父モッキンポット師  お人よし神父と悪ジエ学生の行状を軽快に描く笑いとユーモア溢れる快作。」と紹介されているように戦後の貧しい時代を氏の体験をベースに創作された作品だ。あの喫茶店のマスターはいつ何処でどんな状況でこの作品を読んでファンになったのであろうと思い描きながら読み進めて行くと、アッという間に読み終えてしまった。もし、この作品にあの頃に出逢っていたら、私は何が何でも東京を目指していたかも知れないな~ 人生は不思議だな~

 

6年前に75歳で亡くなった井上ひさし氏は永六輔氏や大橋巨泉氏と同世代である。これらの方々に限らず、戦後の貧しい時代に思春期、青春期を生きた方々の生きる力、そして想像力や創造力は凄い・・・!!! 

 

『モッキンポット師の後始末』の「~あとがきにかえて 私のヒーローモッキンポット師」の最後にこんなことが書いてある。「疲れた日本人の歴史的危機をいったい誰が救済するというのか、それは皆目わからないが、そいつはたぶん独裁者としてあらわれるはずだ。その英雄的独裁者のあらわれる時をすこしでも先へのばすためにも、私はドジで間抜けな主人公を次から次へと作り出さなくてはならない。それらの主人公たちが、疲れた人たちの疲労をやわらげるのに、ほんのすこしでも役に立てば、これこそ作者冥利につきる。」昭和47年10月8日付の読売新聞掲載とある。(因みに モッキンポット=間抜けなお人よし と解った(笑))

 

44年前だが、今の日本のことを言っているようでドキッ!!!とする・・・

 

そして昭和40年、私たち家族にとってアメリカ統治下の両親のふるさと沖縄への移住は、ひょっこりひょうたん島のテーマソングのような旅立ちだったかも知れないな~♪

                 

 

             

 

 

 

 

 

 

 

 

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コメント: 2
  • #1

    みさこ (金曜日, 05 8月 2016 20:48)

    ひょっこりひょうたん島は毎日のように放映されていたけど、大人になっていたのであまり興味なかったなー。でもブログのような背景があったなんて無知でした。戦争を経験した作家や有名人が次々と亡くなられていく昨今、あのような想像力を生み出した背景を探ることは大事なことだね。

  • #2

    ともさん (土曜日, 06 8月 2016 08:20)

    『命どぅ宝』
    今日は広島原爆の日、長崎、沖縄そして全国の戦争の悲惨さを経験された方々が逝っていくなか、
    戦後生まれの我々も政治家もその痛みをしっかり受け止めて、世界平和を目指さなければいけませんね。
    この夏、オリンピック、全国高校野球とスポーツで競い争うことが大好きな人類ですが、平和だからできるのですよね。

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