沖縄発のウルトラマン

 九月だったか?新聞の新刊紹介の欄で『キジムナー kids』(現代書館)という本を見つけた。「キジムナー(ガジュマルの木の妖精)か~、これなら児童書だろうし、頭を働かせなくても気楽に読めるな~」と思い、早速、友人の店に予約して購入した。

 

ところが・・・

 

著者は上原正三氏で、我々世代が夢中になったウルトラマンのシナリオを書かれたかたで、80歳になられているようだ。本の内容は上原さんの体験からの作品と思われ、沖縄戦が始まる前に熊本へ疎開し、終戦後に沖縄へ帰ってからの色々な体験が少年の視点で生き生きと描かれている。

 

私は戦後生まれだが、戦後20年目の小学校3年生の時に同じ九州の隣県である宮崎から、まだアメリカ統治下の沖縄へ引っ越したので、時代は20年も違うが少年時代特有の眩しくせつない情景が重なる部分もあり、(例えば最初に住んだ浦添では目の前が広大なアメリカ軍基地だったし、少年特有のよそ者へのケンカの実力試しやetcもあったな・・・)夢中で読み終えた。進学で京都に出るまでの10年間ほど(9歳から20歳)は沖縄で過ごしたので、文中のウチナーグチである沖縄方言(本の下部にはそのつど方言の解説があり他府県の方々も読みやすい)は7割程度は理解でき、戦中や戦後すぐの沖縄の人々の暮らしや思いがひしひしと伝わってきて、心は大きく揺さぶられた。

 

日本本土を守るための国策(兵士の食糧確保など)とはいえ、本土に向け魚雷の飛び交う海を粗末な船で何日もかけ渡り、命からがら疎開させられた人々が、終戦後に帰郷してから肩身が狭かったことや、食料難、アメリカ軍との関わりの中で植民地のような扱いがあったこと、そして主人公の臆病さが私自身に重なり、胸が締め付けられる場面もあった。

 

さらに、那覇市で造り酒屋を営んでいた母方の祖父は、(当然だが、戦後生まれの私は祖父には一度も会えることも無く、金持の遊び人で祖母を苦労させた人という勝手なイメージを何となく持っていた・・・)サイパンがアメリカ軍に占領され、いよいよ沖縄が日本本土防衛の最後の砦となるということで、家族を九州に疎開させ、(それが無かったならば、私はこの世に生まれ存在していないな)自身は最後まで地域住民の世話をして、昭和19年10月10日の那覇市の壊滅的な大空襲で沖縄本島北部に逃げ、餓え死にしたと昨年だったか親戚が(上原氏と同じ年齢の人)人伝えに聞いたと初めて聞かされた。そのことは、文中での悲惨なシーンで祖父の最期がどのようなものであったのか想像でき胸が痛んだ。

 

上原氏の文章には沖縄戦や終戦直後の悲惨さが多く描かれているのだが、なぜか沖縄の太陽や空や海のような明るさ、温かさ、笑い、希望が散りばめられている。(そんな文章を私も書いてみたいものだ・・・)

 

小中学校時代に夢中になった上原氏の描いた正義の味方『ウルトラマン』のストーリーには、そんな氏の少年時代の辛い中にも強く豊かで温かなウチナーンチュ(沖縄県人)としての体験が糧になっているのだろうか・・・

 

還暦も過ぎたがシュワチ!と、あの頃ウルトラマンが発した気合いを真似して、これからも頑張ろうかね(笑)

 

 

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